芝咲胡桃のポエム
濃厚すぎるミルクは、厳しい。
牧場の風がふと遠のいて
真っ白な甘さが舌を支配する
一口目は、贅沢の味がした
まるで高級な絨毯に足を沈めるように
心までとろけていくはずだった
けれど、時は静かに淀んでいく
スプーンの先から滴るそれは
スープというより、もう雪崩のよう
甘みの重力に、呼吸さえも少しだけ軋む
「美味しい」の向こう側にある境界線
豊かさとは、時に身を削るほどの重さなのだと
グラスの底を見つめながら思い知る
もう少しだけ、軽やかであれ
風が通り抜けるような、あの青空のような
透き通った余白を、私は求めている
ニュースを、消せ。
画面の隅で、点滅する赤い文字。
世界中の不安と怒りが、冷たいガラス板の向こう側で幾重にも折り重なる。
知らなくていい痛みが、指先ひとつで流れ込む。
正しさの刃が、無数の言葉に形を変えて胸を刺す。
見上げれば、夕暮れの空はただ静かだ。
電線に並ぶ鳥たちは、今日の出来事など知らない顔ですまし顔。
だから、引き算をしよう。
濁った川の水が、やがて澄んでいくように。
耳を塞ぎ、目を閉じ、
ただ自分の呼吸の音だけに耳を澄ます。
画面を消して、夜を迎えよう。
静寂という名の、美しい空白を取り戻すために。
エビチリさん
赤い衣をまとったあなたは
いつもちょっと熱くて、照れ屋で
甘さのなかに、ピリリと芯のある優しさを隠している
中華のテーブルの真ん中で
湯気をほのかに立ち上らせながら
「今日も一日、お疲れ様」って
真っ直ぐに私を見つめてくれる気がする
白いご飯の海に身を委ねて
その鮮やかな赤で、私の心を染めていく
エビチリさん
あなたの存在は、いつだって食卓の主人公
うまく言葉にできない日も
あなたのひとくちを食べれば
胸の奥からじんわりと、明日への元気が湧いてくる
ありがとう、エビチリさん
今日も私の世界を、鮮やかに赤く彩ってくれて
今日という一日が、あなたにとって温かくて美味しい時間になりますように。
関係リセットの性分
綺麗に整えられた庭の端で
私はいつも、見えないはさみを取り出す
芽吹いたばかりの緑も
深く根を張った枝葉さえも
ある日突然、愛おしさが怖さに変わる
「ここまでにしておこう」
心の中で小さなスイッチがカチリと鳴る
連絡先を消し、思い出を畳み
すべてが初めからなかったかのように
私は自分の足で、安全な孤島へと還っていく
誰かに深く傷つけられたわけじゃない
嫌いになったわけでも、決してない
ただ、温もりを知れば知るほど
いつか訪れる終わりの影に怯えて
自らその手を離してしまうのだ
綺麗事の絆より
孤独という名の静寂が、なぜか心地よくて
足跡をきれいにかき消しながら
また一人、新しいスタートラインに立つ
またいつか、同じ過ちを繰り返すだろう
それでもこの手は、愛を知るたびに
決まってすべてをリセットしてしまう
それが、私の不器用で愛おしい性分なのだから
愛しくないテリー
名前を呼ぶたび
声の裏側で砂利が擦れるような
そんな響きをまとった存在
どこにでもいそうで
どこにもいない
ただの記号のようでありながら
妙に生活の影に居座る男
愛されようともせず
愛そうともしないまま
ただそこに輪郭だけを残して
ソファの染みのように乾いていく
なぜお前を思い出してしまうのか
愛しくもないのに
夕暮れの冷たい風が吹くたび
テリー、と
つぶやいてしまう自分がいる
あたたかな熱もなく
胸を焦がす痛みもなく
ただ、そこにあるだけの空白を
埋めるための名前として
愛しくないテリー
今日も今日とて
救いもなく、救われる必要もなく
世界の一部として、ただそこにいる

